自 己 紹 介

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京都市在中。自宅近くの嵐山周辺の西山や、桂川がホームグラウンドです。 現在飼育中の、数種のカエル・トカゲ・ 昆虫・鳴く虫の飼育記や、植物・ 野生生物を中心とした自然観察記、 釣り・山登りのレポートを記事にして いる、自然をこよなく愛す40代です(*^_^*)

2014年6月11日水曜日

BreakTime/鴨川のクレソン

私が「クレソン」と言う名前を聞いたのは結構前のこと。
高校2年生の頃だから、もうかれこれ30年近くになりましょうか。

京都市中心部の高校に通っており、
アルペンスキー部に所属しておりました。
スキー部と言っても、雪の降らない京都市。
練習は、もっぱら二条城や鴨川をランニングしたり、
タマに京都御所内のグラウンドを借りてソフトボールをしたり。
春~秋はそんなことをやっておりまして、
冬になると、1週間ほど信州へ行って合宿という具合でした。

そのスキー部の一つ上の先輩から、
中華料理屋のアルバイトを引き継ぎました。

その中華料理屋は、京都の繁華街「四条河原町」に
ほど近い場所にありまして、中年のおじさん、おばさんの夫婦が
2人で切り盛りしておられました。

学校を出てアルバイト先へ着くと
おじさんは「ご飯にしょうか!」と言ってくれ、
中華丼や野菜炒めなどの店メニューを作ってくれました。
しかし、タマ~に忘れるんでしょうね。
声が掛からないことが有るんですよ!

こちらは育ち盛りなので、おじさんの声を「今か今か」と
待っているわけですが、一向に声が掛からない。
忙しいのか?と言うと、さして忙しくなく、
むしろ暇なくらいなのにです。

そんな時は、オバサンが「お兄さ~ん、ご飯にしよか!」と、
タバコの吸い過ぎなのか?、喉につっかえが有るようなダミ声で
声を掛けてくれるのです。
上手く出来たものですね。

さて、この住居兼店舗には1匹の犬がおりまして、
昼の営業を終えた休憩時間や閉店後に
おじさんが、近くの鴨川へ犬の散歩に出かけるのが日課でした。
私は、高校生なりに、住居部分の土間ながら、
飲食店にイヌが居るのは如何なものか?と思っておりましたが、
当然のことながら、おじさんに言えるはずもなく、
イヌに威嚇されながら、土間で着替えたものです。

結局、私のそんな気持ちをイヌが見透かしたのか?
最後までなつきませんでしたね・・・。

そんなある日お店に行くと、おじさんの表情が明らかに違うのです。
こんな日は何かあるのだが、私は気が付かないふりをして・・・
何食わぬ顔をして、洗い物をはじめました。

そんな私の気も知らず、おじさんはその後、
赤っ恥をかくことになるとんでもない計画をブチ上げて来たのです。

「あのなぁ、お兄さん。クレソン!。クレソン知ってるか?」
「そのな、クレソンがな、生えてるんを見つけたんや!」
「どこやと思う?、それがなぁ、鴨川やで!鴨川!」

おやおや、この様になったおじさんはもう手が付けられません。
なんせ、自分で質問しておきながら、
私に喋らせないどころか、自分で答えまで言ってしまうのですから。

きっと、この次には来る言葉が決まってます。

「採りに行こ!」

(ほら来た!やっぱりなぁ!)
ここで初めて私にも喋るチャンスがやってきたようです。
「ドコに行きますの?」

「そやからなぁ、お兄ちゃん。鴨川やんか!鴨川!」

おじさん、かなりの興奮状態です。
実は、このようなやりとりがあったのも、
過去にこんな事があったからなのです。

鴨川には以前にも、おじさんから
「昼間なぁ、鴨川で大きいコイが泳いどったんや!釣りに行こ!」
といって、閉店後の10時頃から繰り出した記憶があります。
営業用の長靴を履いて、釣り竿を持って歩くんです。
修学旅行生の聖地「新京極通」を!
多くの店が閉店しており、昼間のような喧騒はありませんが、
それでも、新京極。
程々に人通りはありまして、明らかに「コイツらナニ?」的な視線を
イッパイに浴びながら鴨川へ向かったのですが、
おじさんはどこ吹く風。
「コイツらナニモノ」の視線を意に介さず、もう既におじさんの視線は
鴨川のコイに向かっていたのです。

私も鯉釣りはそこそこやっておりまして、
今までに吸い込み釣りやルアーなどで
大小様々なコイを仕留めておりますが、
果たして、水深20cmほどの鴨川で「吸い込み釣り」が成立するのか?

興味がなかった訳ではありませんが、
私の予想に反し、釣りどころの事態では無い光景が、
夜の鴨川には繰り広げられていました。

そうです。
皆さんお気付ですね。
鴨川名物「等間隔に並ぶカップル達」です。

しかし、私の予想に反したのは、
おじさんの行動でした。
おじさんは、何くわぬ顔でカップルの隙間に
竿を出そうとしているではありませんか!
それも、相当慣れています。
「こりゃ~、一人でも来とるなー!」と直感する様な
見事な手際の良さです。

あるサイトによると、鴨川のカップルの平均間隔は
午後4時で5.78m、午後6時半で3.25mであるらしい。
時間が遅くなるに従い密集度が増してくるらしいので、
私達が存在して居る午後10時半の鴨川には、
果たして何メートル間隔でカップルが並んでいるのだろうか?

しかも、後ろを行く通行人のことも考えると、
とても、竿を出せる状態ではない。
何よりも、人々の視線がこんなにイタイものだったとは!

結局、おじさんは再度私の予想に反して
「こりゃあかんなぁ、帰ろか~」と言ってくれました。
私は、慣れた手つきから強引に竿を出すのでは?
と懸念しておりましたが、その思いは払拭され、
清々しい気持ちで、首を縦に振ることが出来ました。

しかし、あのおじさんの慣れた手つきは一体何だったのでしょう?
帰り道、その謎が解けました。

「昼間なぁ、来た時は誰もおらんかったんやけどなぁ~」

(へ!?昼間?昼間来たの~?)
ポツリと寂しそうに言うおじさんは少し肩が下がって
幾分小さく見えました。
なので、私も「そうですねぇ」と寂しそうに答えました。

今でも、毎日閉店後に鴨川へ犬の散歩に来ているのに
今まで気が付かなかったことも不思議でなりませんでしたが、
そんな疑問を聞ける雰囲気ではなく、
重苦しい空気のまま、またもや新京極通りを帰路につきました。

そして、今日です。
私はその日、生まれて初めて「クレソン」という言葉を聞きました。
クレソンは食べられる野草で、水辺に生えると言うことを
おじさんから聞き、それをお客さんに提供する!という
壮絶な計画を、この時初めて知ることになるのです。

以前のような“前科”の苦い思い出が頭をよぎるので、
洗い物も手につきません。
おじさんは、何やらラジオに合わせて古い演歌を口ずさんでいます。
この時のおじさんは、とても上機嫌ではあるのですが、
なにやら悪巧みを考えている時でもあるのです。
おじさんもきっと、「クレソン」のことで頭が一杯で、
仕事が手につかないのでしょう。

同じ空間に存在している私とおじさんは、
二人ともクレソンのことで頭が一杯なのは共通しているのですが、
気分は全く真逆の様子でした。
しかし、それは私の「若気の至り」であったと、
今になってよくわかります。
こうして私がおじさんと同じくらいの年令になった今、
クレソンを見つけたら、鴨川だろうが道頓堀川だろうが、
きっと、長靴を履いて人混みをかき分けてでも
採りに行くに違いありませんから・・・。

しかし、何か起こるんですよね。
そんな時に限って。
できるだけ目立たないように気配を消したつもりでも、
何故か、なにか起こってしまう。
おじさんと今の私は、基本的に同じ空気と言いましょうか、
共有する部分が多いので、その当時もその片鱗があったのでしょう。
そう言う意味では、おじさんと私でハプニングの相乗効果が
起こったのかもしれません。

鴨川に着いた、おじさんと私。それにイヌのタロ(忘れたので仮名)は、
早速、カップルの隙間の護岸からクレソンポイントに降りようとしました。
ご存じの方も多いかもしれませんが、
京都の繁華街を流れる鴨川は、先斗町や対岸の川端通の
飲食店の明かりが適度に川面を照らし、夜でも程よい明るさが
確保されています。
真っ暗でもなく、明るすぎるのでもないのが、
カップルたちに支持される一因かも知れません。

鴨川の川岸は、隅々までコンクリートで固められた護岸で
角度も大きいので、降りるのに一苦労で、
しかも、コンクリートがかなり滑るため、
そのテクニックたるやかなり高度なものが要求されました。

しかし、そのテクニックを全く持ち合わせていないおじさんは、
一歩踏み出すや否や、尻もちを付くように川へ吸い込まれていったのです。
一瞬の出来事でしたが、周りのカップルたちの声にならない驚きが
うっすら明るい夜空に映しだされました。

それでも、当のおじさんは滑ったながらも、
しっかりと戦利品を手にし、終始ご満悦な様子でした。

さて、店へ戻ってきた頃には、時計は午前12時を回っていました。
「クレソン採りで午前様」ではありますが、
早速おじさんが「たべてみ~な~」と言って
得体のしれない“通称クレソン”を差し出しました。
私は、クレソンと言うものを知らないので、
少々怪しい気持ちはありましたが、
恐る恐る口にして、お世辞にも「美味かった!」と言う記憶はありません。
と言うか、全体的に味はあまり覚えていないのですが、
唯一覚えているのが、「コレハ ホントウニ タベラレルノ ダロウカ?」と
疑問に思ったことを、30年経った今でもフトした拍子に思い出します。

おじさんの料理店が服屋さんに変わって久しく、
今となってはおじさん・おばさんの消息すらわかりませんが、
今でもタマに繁華街へ行っておじさんの店があった所を通ると
アルバイト時代の楽しかった記憶が蘇りこそすれ、
未だに、アレがクレソンかどうかの結論は出ていません。

鴨川産の“仮称クレソン”は、暫くの間、店の料理を飾りましたが、
ある日を境にして突如消えた所を見ると・・・。
案外・・・?。


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